分母数を増やせば成功数が大きくなることを利用した株の詐欺




確率の基本的な公理には、

  • どのような事象でも確率は0 から1 の間になる。
  • すべての事象の確率は1 となる

があります。

参考記事 確率の基本的な公理

たとえば、コイン投げで表が出る確率は1/2 で、裏が出る確率も1/2 です。1回のコイン投げで起こる事象は、表が出るか、裏が出るかですから、すべてを合わせた事象の確率は1 となります。これは、どんな小さな確率のできごとの集まりでもそうだということです。

起こること、起こらないことの確率を合わせれば、1になります。必ずどちらかが起こるのです。

この公理に関係した、詐欺について紹介しましょう。

株式投資において、来週の株価が上がるのか下がるのかの予測を連続で当てられることを示し、誰かにその予測内容を販売する詐欺です。

株は、価格が安いときに買って、高くなってから売れば、その差額は自分の利益とすることができます。もし、「来週この株の価格は上がるでしょう」といった予測があって、それが当たるのであれば、事前にその株を買っておき、来週になったら売れば儲けることができるわけです。

もし、株価の予測屋なる人が、何週も連続で株価が上がるか下がるかの予測を当てたうえで、「次の予測内容を買いませんか?」と、あなたに提案してきたらどうでしょうか。ひょっとしたら、あなたはそれを買ってしまうかもしれませんね。

ですが、実際、株が上がるか下がるかは、神のみぞ知るといったところで、予測はできるものではありません。長期のトレンドなら違うかもしれませんが、明日どうなる?来週どうなる?といった短期の変化に関しては、わからないものです。

ですから、株価が上がるか下がるかは、それぞれ1/2 の確率であるだろうと考えられるわけです。

株価が上がるか下がるかを5週連続で当てられる確率は、

1/2 × 1/2 × 1/2 × 1/2 × 1/2

=1/32

=0.0315

と、約3.2%となるわけです。

このような小さい確率ではあるのですが、上手く人をだませる方法として、分母を大きくすることで、実際に当たる数も増やしていくことができます。

また、すべての事象の確率は1となる、という確率の公理どおり、来週の株価は、必ず上がるか、下がるかのどちらかになるのですから、次に示すような詐欺戦略が実行できてしまうのです。

100人のカモになりうる対象者を見つけて、

  • 半数の人に対して、「この株の価格は来週には上がるだろう」と予測を伝えます。
  • と同時に、残りの半数の人に対して、「この株の価格は来週には必ず下がるだろう」と予測を伝えます。

来週になってみて、株価は上がったとしましょう。そうしたら、

  • 先週に「株価は上がるだろう」と伝えた人には、ほら私がいった通りになったでしょう、と話します。
  • 先週に「株価は下がるだろう」と伝えた人には、そこで連絡をとるのをやめ、音信不通の状態になります。

そして、前週に株価は上がるだろうと伝えた人たちをまた相手にして、その半数には、「来週も株価は上がるだろう」と、残り半数には「来週は株価は下がるだろう」と伝えるのです。あとは、繰り返しです。実際に株価が下がったのであれば、株価は下がるだろうと伝えた人たちだけに連絡をして、「私の言ったとおりになったでしょう。」とやるのです。

上がるのは50%、下がるのは50%としたら、5回連続で当てる確率は、3.2%です。100人に対してこれを実施すれば、3人くらいに対しては、5週連続で予測が当たったことにできます。

かくして、その3人は本当に予測できるのだと信じて、詐欺師から予想内容を買うためにお金を払ってしまうかもしれません。

1000人に対して実施すれば、30人がカモになりえますね…。株価は必ず上がるか、下がるかのどちらかになります。何度も株価が上がるか下がるかを予測して当てられる確率は非常に小さいのですが、1000人に対して実行するというように分母の数を増やせば、多くの人に、予測を当てた!と信じさせてしまうことができるのです。