生産者のリスクと消費者のリスク




ものごとを判断するときには、2つの誤りがあります。「第一種の誤り」、「第二種の誤り」です。

これは、統計学の検定のときにつかわれる言葉。

「第一種の誤り」はあわて者の誤りともいい、本当は何も変わっていないのに、変化の兆候が少し見られただけで、あわてて変わったと判断してしまうこと。

「第二種の誤り」は、ぼんやり者の誤りともいい、偶然に発生しているのではなく、何か原因があって起きていることなのに、偶然に起きていると判断すること、本当は変わっているのに、変わっていないと判断してしまう誤りのことです。

第一種の誤りのことを生産者リスク、第二種の誤りのことを消費者リスクと呼ぶことがあります。

生産者と消費者のリスク。この用語が使われるのは、たとえば、品質管理において、抜取り検査をするときです。

抜取検査とは、製品ロットすべてを検査するのではなく、抜き取った一部だけを検査し、そのロット全体が合格か・不合格かを判定する方法です。

なぜ、一部だけを抜き取って検査をするのか?

  • 検査によって製品が壊れてしまい使用できなくなるから
  • すべて検査するには、労力がかかりすぎるから

といった理由があります。

抜取検査では、すべてを検査できませんから、ロットのなかに不良品の混入が許容されなくてはなりません。そして、それを顧客と取り決めて、あらかじめ明確な基準を設定しておくことになります。

ネジの製造メーカーでの最終検査で抜取検査をするときのことを考えてみましょう。

生産者がネジ10000本を出荷するときに、生産者と買い手の顧客との間で、少しの不良品が混在しているのは仕方がない、99%くらい良品であればよい、と考えたとしましょう。

そして、抜取検査で100本抜き取って、そのうち99%以上(99本~)が良品であれば、出荷可能、良品が99%未満であればとすると取り決めたとしましょう。

実際に抜取検査をしたとき、100本抜き取って、100本が良品でした。これなら、ルールどおり出荷できます。

しかし、ネジ10000本のなかには、多くの不良品が含まれていて、たまたまそれを抜き取らなかっただけかもしれません。もしそうだとしたら、消費者は不良品の多い製品を受け取ってしまうことになります。

これが消費者が抱えているリスクです。

一方、生産者側にもリスクがあります。ネジ10000本から100本を抜き取って、95本が良品、5本が不良品であったとしたら、出荷することができません。

しかし、実は10000本すべてを調べたら、99%は良品であるのに、たまたま不良品を多く抜き取ってしまっただけかもしれません。もしそうだとしたら、生産者は本当は良品で出荷できる製品を、出荷できなくなってしまったのです。

これが、生産者が抱えているリスクです。

生産者側にも、消費者側にも、これでよいと判断したけど実際は違っていた、というリスクがあります。それが、生産者のリスクと消費者のリスクです。