ギャンブラーの誤謬(と誤謬の誤謬)




ギャンブラーの誤謬とは、その事象がもつ本来の確率が、少数の試行でも観察されるはずたという誤った思い込みです。

試行の回数を増やしていくと、本来の確率に収束してくることを、大数の法則といいますが、本来の確率とは、たとえばコイン投げであれば、表が出る確率は理論的に1/2です。たくさんコインを投げ続けていると、表が出る確率は1/2に収束していくということです。

しかし、大数において当てはまることが、試行回数が少ないときには成立しない場合が多くあります。

表に賭けて負け続ける

コイン投げをして表が出るか、裏が出るかを当てるゲームをしてみましょう。相手がコインを投げて、あなたが表か裏に賭けます。最初は“裏”が出ることに賭けました。結果は、

  • 1回目 表

でした。負けてしましたね。次の勝負も“裏”が出ることに賭けたら、表が出てしまって負け。さらに、3回目も同じ結果でした。

  • 1回目 表
  • 2回目 表
  • 3回目 表

3連続で負けています。次に、表と裏どちらにかけるかを考えるときに、「そろそろ裏が出るだろう」と考えてしまう人は少なくないでしょう。あなたもそうかもしれませんね。

あなたは、4回目は今度こそ裏が出るだろうと思って、裏が出るほうに賭けました。しかし予想に反して、4回目も“表”が出てしまいました。

  • 1回目 表
  • 2回目 表
  • 3回目 表
  • 4回目 表

なんと、4回も連続で表が出たのです…。

あなたは、悩みます。次はさずがに裏が出るだろうから、また裏に賭けるか。いや、5回目は表に賭けてみるか…、でもここで表に変えたとたんに裏が出たら最悪だな…、と悩んでしまって次にどちらに賭けるのか、なかなか決められなくなってしまうかもしれません。

ここで働いている思考は、表が出る確率も、裏が出る確率も1/2ずつなのだから、4~5回のコイン投げのなかでも表・裏が半分半分くらいで出てこないとオカシイ。こういう思考です。

でもじつは、5回目に表が出る確率、裏が出る確率、どちらも1/2です。

次のコイン投げは表が出やすい、裏が出やすいといったことはない

これまで表が出続けてきたからといって、それが次のコイン投げの結果に影響を与えることはないのです。5回目のコイン投げはまた新たにコインを投げ直すのですから、なにもこれまでのコイン投げとは関係していません。次のコイン投げの結果は、表1/2、裏1/2 の確率です。

しかし、次こそは裏が出そうだ!と思ってしまう。

誤謬とは、論証に間違いがあって妥当でないことで、ギャンブラーが「コイン投げで表が出る確率も、裏が出る確率も1/2ずつなのだから、数回のコイン投げのなかでも表・裏が半分半分で出てくるはずだ。」という間違った論証をしてしまうのがギャンブラーの誤謬です。

たしかに、コインを投げる人がイカサマをしていないこと、コインの投げ方にクセがないことなどが前提となりますが(ここは大事ですね)、コイン投げで表が出る理論的な本来の確率は、1/2です。

それに、試行回数を増やしていくと、結果は本来の確率(個の場合なら1/2)に収束していくという大数の法則があります。

表ばかりが連続で出ていると、1/2の確率と合っていないではないかと思ってしまいますが、大数の法則は、試行回数を無限に増やしていった(n→無限)ときに、確率が1/2に収束することを言っているのです。

実際にコインを何度か投げてみるとわかりやすいかと思いますが、表が連続して出ること、裏が連続して出ることは、まああるはずです。少ない試行回数内で見ると、表が多いといったことはよくあります。

表が数回連続で出ることはよくあること

コイン投げで「表」が出るか「ウラ」が出るかを、エクセルでシミュレーションしてみました。その結果を見てみましょう。

1/2 の確率で「表」か「ウラ」のどちらかを表示するようにし、100回の試行を行いました。

ウラ、表、ウラ、ウラ、ウラ、表、表、表、表、表、表、ウラ、表、ウラ、表、表、表、ウラ、ウラ、表、ウラ、表、ウラ、ウラ、表、ウラ、表、ウラ、ウラ、表、ウラ、ウラ、表、表、ウラ、表、ウラ、表、表、ウラ、ウラ、ウラ、表、表、表、表、表、表、表、表、ウラ、ウラ、表、表、ウラ、表、ウラ、ウラ、表、ウラ、ウラ、表、ウラ、ウラ、表、表、表、表、ウラ、ウラ、表、表、表、ウラ、表、表、ウラ、ウラ、表、表、ウラ、ウラ、ウラ、ウラ、表、ウラ、ウラ、ウラ、ウラ、ウラ、ウラ表、表、表、表、ウラ、表、ウラ、表、表

※「裏」と漢字で書くと「表、裏」と漢字が並んで読みにくいので「ウラ」と書いてます。

こういった結果になりました。4回以上連続で同じ面が出てきたところには色を付けています。6~7回連続で出てきているところもありますね。

ある程度の回数は、連続で同じ面が出てきたとしてもおかしたことではなさそうですね。ギャンブラーの誤謬にとらわれると、正しい判断ができていないことになってしまいます。

ところで、100回の試行の全体の結果を見ると、表は53回、裏は47回でした。500回までの試行をみると、表は248回、裏は252回となって、大数の法則が効いてきました。

蛇足 ギャンブラーの誤謬の誤謬

と、ここまでがギャンブラーの誤謬の考えですが、現実のギャンブル・ゲームでは、表が多く出てきているときには、表が出る確率がわずかだとしても本当に大きくなっている可能性はあります。

理由としては、コインを投げる人がイカサマをしている、コイン自体や投げ方にクセがある、などです。

もしそうだとしたら、表に賭け続けるほうが勝てますよね。

過度に大数の法則を信じすぎて、「コイン投げで表ばかり出ているけど、長い目で見れば裏も同じくらい出るだろう」と考えて、表が多く出るようになっていることを疑わないとどうなるか。

それを見抜けないと負けます…。

これは、ギャンブラーの誤謬の誤謬といえそうです。

参考記事 大数の法則をコイン投げの例でシミュレーションして考えてみる